
〈ダイジェスト〉
「客数×客単価×リピート率」が増える酒屋
長島酒店は卸売りと個人客との両方にお酒を販売している酒屋です。現在、卸売りの比率は7割5分。静岡市内中心部の飲食店がおもなお客です。
ビールを中心にワインや地酒も配達していますが、かつてはワインが1本も売れない店でした。2代目店主、長島隆博さんが店をまかされるようになってから、「ワインと地酒の専門店」に方向性を大きく変えました。
店内に陳列した商品の9割がワインもしくは日本酒。ビールがほんのわずか冷蔵庫に見えますが、冷蔵庫の中はチーズなど、お酒のつまみに合いそうなものがほとんど。
昔ながらの酒屋を、個人客が買いに来るワインと地酒の専門店に変えたことで、前年比平均104パーセントと、少しずつですが数年連続して客数は増えています。
従来と経営スタイルを変えない酒屋は生き残りが厳しい時代を迎えています。酒類を販売するには免許が必要ですが、出店に際しての規制が緩和されたことで、競争がより厳しくなったためです。

しかし近年、小売りをするには既存店から一定距離が離れたところに出店せよという基準が廃止されました。さらに、一定の人口に応じて与えられた免許の基準も廃止されました。
酒類販売の免許を持っている小売店は、より売上が上がる地域に店を出すことができるようになったのです。
規制要件が緩和されたことで、お酒を扱うコンビニやスーパーが既存の酒屋の市場にくい込んできます。法の範囲内であるかぎり、占有率の奪い合いを止めることはできません。
各地の個人酒店によっては、数店が結集することで、商品の仕入価格を少しでも抑える努力をしているところもあります。しかし残念ながら、衰退期に入る店が増えていることは否定できません。
後継者不足に悩む酒屋が多いことも、経営の革新を衰えさせる原因のひとつです。
長島さんによると、「町の酒屋は年齢的に60歳過ぎの人が多く、後継者がいない。からだもえらいことだし…と、今後店を閉める人がかなり存在します」とのこと。
酒屋を取り巻く経営環境が悪化するなか、長島酒店のお客が増えているのは、もちろん理由があります。
- 「ワインと地酒の専門店」に絞るという、商品戦略が優れていることがひとつ。
- お客との対面販売をとおして、専門店としての存在意義に気づいていることが2つめの理由です。
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また、対面販売であっても、ハガキを活用することでお客との関係性は深く構築し、お客を増やしていることを3つめの理由にあげることができます。
とりわけ、「来店客へハガキを出してから明確に、お客が増え始めたことを強く実感している」と長島さん。
店に来るお客の単価も上がりました。スーパーやコンビニに酒売り場が少なかった10年前の平均単価は約2300円でしたが、最近は3000円前後と大きく増えました。
スーパーで買うことができるビールなどはスーパーで購入し、長島酒店にはワインや地酒を求める、目的買いの客層が厚くなったことを証明しています。

昔ながらの酒屋から、ワインと地酒の専門店に変わったいま、ワインと地酒に“うるさい”通のお客の要望に応えることは当然です。
しかしより多く喜ばれているのは、ワインや地酒のことがわからない、一般的なふつうのお客だといいます。
「わからないから、プロにまかせる」
「わからないから、専門店で買う」
お客にとって、どういう存在の会社が選ばれるのか。会社の存在意義を問い直させてくれる事例が、長島酒店、長島隆博社長のレポートなのです。
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