業種は無関係。「経営のやり方」が重要です。

〈ダイジェスト〉

転業を乗り越えて逆境を打開

サンクフルハート_湯っとりあ
 35年あまり続いた電子部品の製造から撤退し、介護事業に転向した会社、株式会社サンクフルハートを取材したレポートが、お客が増える!No.68です。
 サンクフルハートの社長、山岡健一さんの父親は湖北電子(こほくでんし)という会社を率いていました。昭和62年(1987年)に設立した湖北電子は、電解コンデンサ組立加工事業をはじめ、大手の下請けを担っていました。
 一時は、従業員が70人を数えるほど仕事に恵まれましたが、やがて会社存続の危機を迎えます。親会社の海外移転により仕事が激減したからです。
 先代は会社の立て直しと同時に、将来を考え、新規事業部門を発足します。現サンクフルハートの事業につながる、健康福祉部門です。平成16年(2004年)のことでした。
 その3年前に入社していた山岡健一さんがリーダーとして新規部門をひっぱります。事業を成功させるべく奔走しますが、そう簡単にうまくいきません。
 世の中に存在しなかった、組立式浴槽の商品化を果たしたものの、購入に踏み切るお客がきわめて少なかったからです。
「戦略は間違っていない」
 山岡社長はそう思いました。

  • 組立式介護浴槽という独自商品を持っている。試しに使ってみるための「貸し出し」という差別化も実現している。
  • エンドユーザーは、お風呂に入る利用者であり、デイサービスやケアマネージャーは、利用者の状況を把握したお客。さらに、入浴を手助けする介護関係者なども、日々、商品に接する直接的なお客。そんなお客ごとの対応もできている。
  • 数多く発生する接点をおろそかにしないために、営業範囲も無理なく設定している。
サンクフルハート_ほっとバス

 たしかに、商品と営業地域、客層との整合性がとれています。ところが売上は伸びません。その理由も、やがて自覚できるようになりました。
 介護・福祉事業に後発組として参入した山岡さんたちは、福祉や介護の現場の人たちから信用されるレベルに至っていなかったからです。
 自社製品のアピールはできますが、介護に関して質問されると答えられない…。新規事業がスタートして半年後に気づいたことは、せめてもの救いでした。
 この時点から、サンクフルハートの本当の意味での新規営業が始まります。

  • 本命商品の周辺に位置する、福祉用具のレンタルおよび販売を新たに開始。介護現場との接点を大きく拡大することで、お客の声を吸収してきました。
  • デイサービスの管理者やケアマネージャー、介護を必要とする人に信頼されるべく勉強を重ね、商品も改良を重ねます。
  • 標準規格品中心からオーダーメイド中心に変更し、売る営業から聞く営業に変えていったことでユーザーが増えてきました。
 しかし、新規事業の将来が明るくなる反面、既存事業の業績は挽回できず、平成21年(2009年)、従来の事業から撤退。湖北電子は消滅し、介護福祉部門だけが株式会社サンクフルハートとして存続。
 山岡健一さんが代表となるのと時期を同じくして、組立式介護浴槽『湯っとりあ』の納入先が増え始めました。
 商品を開発し、販売してからの4年間は、ほとんどお客が増えませんでした。ところが、そのあとの5年でお客は激増。
 お客の数が増えたことにともない、福祉用具のレンタルや居宅介護支援事業などを含めた売上は2倍以上に伸びました。
 改良したことで商品力が上がりました。商品を最適の客層に絞り、見込客の数を考慮して営業地域も設定しました。
 前身が電解コンデンサという畑違いの事業だったことを忘れさせるほど、介護に関する専門能力も磨きました。
 しかし、サンクフルハートのお客が増えている最大の理由は、山岡健一社長の決断力にあります。

  • 先代と、山岡社長のおじさんとで築いてきた事業から撤退したこと。
  • 新規事業以外の事業に取り組まなかったこと。
  • 売れ行きが思わしくないにもかかわらず、売上を目的とした扱い商品の拡大に走らなかったこと。
  • お客と接する時間を減らさないために、営業活動の最大範囲を決めていること。
  • 商品の価値をもっとも感じてくれるお客に絞って営業をしていること。
  • 商品が売れるようになっても、事業領域を広げず、さまざまな誘いを断って経営を継続していること。

 何のために仕事をするのか。なんとしても目指す道を進む。そんな強い思いがあってこそ発揮できる決断力です。
 逆境にあっても、なにひとつ妥協しない。売上を求めるのではなく、お客の喜びを求める。その結果、売上が伸びる。
 会社は、社長しだいでお客が増えることを再認識させてくれる事例。それが、お客が増える!No.68のレポートです。
 
サンクフルハート_ほっと座キャリー


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