業種は無関係。「経営のやり方」が重要です。


カネタ建設
官需から民需へと舵切り英断した事例です。

公共工事が減少し、「新事業へ転換!」「経営の多角化の時代!」と、畑違いの事業に参入する建設会社が多数あります。

新しく取り組む時にはマスコミにより取り上げられますが、その後、どうなったのやら…。

結果的にうまくいくのは、やはり本業から外れないことではないでしょうか。
そして、経営者が経営の勉強を重ね、「なんとしてもやりぬくんだ!」という思いの強さによるのではないでしょうか。


〈ダイジェスト〉

建築部ミーティング
 日本の西側と東側との境い目、中央地溝帯と呼ばれる「フォッサマグナ」を覚えているでしょうか。
 高校か中学か、糸魚川と静岡を縦断するように、違う地層がぶつかりあっていると習ったことを思い出したかもしれません。
 新潟県糸魚川市。新潟県のなかでもっとも西に位置し、親不知海岸などで知られる町です。
 人口は5万人弱。世帯数は約1万8000。糸魚川で昭和8年に創業した、株式会社カネタ建設の猪又直登社長が今回の事例レポートの主役です。
 猪又さんは3代目。祖父、父親に継いで2001年(平成13年)、社長に就任したときは赤字でした。
 カネタ猪又製材所として木材の製材を事業として創業した同社は、やがて住宅建築を請負うようになりますが、2代目父親の代では官庁の土木工事に事業のウエイトを移します。
 猪又さんが社長を引き継ぐ前年の売上は約6億でしたが、2000万円を超える赤字だったというわけです。
 長引くデフレ経済下では2000万円に抑えることができただけ、他社より有利な位置にあったと言えるかもしれません。
 しかし3代目、猪又さんは大きな危機感を募らせます。売上の7割が土木工事の会社では、先細る公共工事に不安を抱える毎日を送ることになる…。その思いは不安というより、恐怖に近いものでした。
 官公庁が発注する仕事ではなく、民間需要に応える会社に戻るべきではないか…。
 猪又さんは、しばらく力を入れていなかった住宅建築に舵を切ります。
 社長になってしばらくは、従業員とのあいだに溝を感じ、リーダーシップを発揮できない状態が続きました。あつれきを生じながらも社内の意識改革を断行し、一人ひとり、いい会社へと生まれ変わることへの理解者を増やしていきました。
 東京が本社の大手玩具会社でサラリーマンをしていた猪又さんです。建築の技術的なことは素人同然だったから、よかったのかもしれません。業界の常識や慣習にとらわれることなく、糸魚川で暮らす人々の住まいを、「社員の個性を売るスタイル」で伝えていきました。
 その思いが伝わり、浸透し始めてから約10年。社長就任時はゼロ棟だった個人住宅は、2011年度は19棟、2012年度は二十数棟を請け負うまでにお客が増えました。売上高は13億円近くに達しましたが、その8割は民間の受注によるものです。
 2013年5月期の経常利益は約6000万円を見込んでいます。公共工事主体による赤字体質を完全に改善させたことを証明しています。
「戦略は間違っていませんでしたが、かといって一筋縄ではいきませんでした」と猪又さん。29歳と11ヵ月で社長に就いた猪又さんは、それから10年あまり、「人材育成で悩んでいるうちに時間が過ぎた」と、次のように言います。

「人のことで悩んだ年月でした。社長になったからには経営のシステムをどう構築するかで頭を悩ませるだろうと覚悟していましたが、現実の問題点は別のところにあったというわけです。29歳で社長ですからね。先代に仕えていた社員はもとより、当社に入社してまもない社員であっても、若い社長についていこうとか、信じて頼りにしようと思う人は少ないですよね。だからといって、しょうがないとあきらめるわけにもいきません。いきがってもいけませんが、おとなしくしているのもいけない。10年以上、もがきました」

 そう振り返る猪又さんがカネタ建設に入社したのは27歳のとき。当時の会社は官庁工事の受注に依存する、典型的な地方の総合建設業でした。
 2代目となる父親は、市議会議員を務めているため専務という立場でした。実際には市議の仕事が忙しく、猪又さんのおじさんが常務取締役として社内を切り盛りしていました。
 東京から糸魚川に戻った猪又さんには課題山積の会社と映りました。
 入札制度に従うからには、仕事を取ることもあれば取られることもあるという、成り行き任せの風潮。10パーセントそこそこの自己資本比率。2パーセント前後の経常利益率。
 業界の悪しき慣習から脱却する必要性がある。公共工事に依存しない会社に変わらなければ将来はない。
介護事業部
 そう覚悟を決めた猪又さんは、経常利益率の中間目標を5パーセントに設定。2015年には7パーセント、「2017年には10パーセントを達成する」と決めました。
 それから数年で経常利益率は中間目標として掲げた5パーセント近くに達しています。個人住宅にシフトし、社内の古き体質を改善した結果です。
 糸魚川では年間100棟前後が新築されますが、糸魚川市内だけでも15、16棟は建築実績を誇るカネタ建設は、個人住宅請負においてシェア1位。リフォーム工事も年々お客が増えています。
 苦境にあえぐ中小建設業が多いなか、人口5万人弱の糸魚川市で業績が伸びているカネタ建設に、お客が増える経営のあり方を見ることができます。


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