業種は無関係。「経営のやり方」が重要です。


前田金三郎商店
静岡市の「茶町通り」にある、前田金三郎商店。

〈ダイジェスト〉

お茶を売らないお茶屋だから、お客が増える!

 急須でお茶を飲む人が少なくなったといいます。1990年(平成2年)を100としたとき、緑茶の国内消費量は、20年後の2010年(平成22年)には97に減少しました。2011年には93にまで落ち込んでいます。
 一方、レギュラーコーヒーは、同じく1990年を100としたとき、2010年には152まで消費量が増えています。
 では、人はお茶を飲まなくなったのかといえば、決してそうではありません。「ペットボトルのお茶は売れています」と、
株式会社前田金三郎商店の前田冨佐男社長は次のように言います。

「お茶の出荷量は昭和40年代には約10万トンありました。今は8万トンに減りましたが、そのうち2万トンはペットボトル用に使用されています。急須で淹れて飲む人は激減しましたが、ペットボトルでお茶を飲む人は増えていると言っていいでしょう。緑茶だけが売れなくなったのです。逆にコーヒーは10万トンでしたが、今では40万トンに増えています。やはり、急須と湯のみ茶碗で飲む量だけが減ったことがわかります」


日本国内の嗜好飲料の消費の推移

 消費量が増えている
コーヒー業界でさえ、お客が増える、ごくわずかな自家焙煎コーヒー豆店と、客数減少に悩む大多数の店に分かれるのが現状です。
 まして、生産量、出荷量、そして消費量が減少しているお茶業界は、縮小する市場をめぐって厳しい競争が行われていると想像するに難くありません。
 ところが、日本一の茶どころ、静岡のお茶問屋、前田金三郎商店はお客の数が増えています。とりわけ2010年以降の3年間で、一般個人顧客という新たな客層のウエイトが高まっています。
 静岡市の
茶町通りという、お茶の問屋が集積している一帯は、全国の小売店を得意先とする卸売会社が数多く存在します。
 そのなかにあって、エンドユーザーを対象とした商品と売り方を研究している成果です。
 2010年は低温による霜の被害で、いいお茶があまりできませんでした。2011年は東日本大震災による放射能被害で、売上が上がりませんでした。2012年は風評被害により売上が伸びませんでした。
 前田社長のように、静岡茶にかかわる人たちにとって、もっとも痛手を受けたのが風評だといいます。静岡茶の販売は各社、さんたんたる結果に終わりました。
 その状況下にあって、前田金三郎商店は逆風にあらがっています。
茶っふる
お茶も売れるが、スイーツも売れる。

 勝因は、まず、緑茶が飲まれなくなった背景を冷静に受けとめ、緑茶や静岡茶本来のセールスポイントを啓蒙する活動こそ、営業活動であるととらえたことです。
 その活動を展開するなかで、急須で淹れるお茶以外の飲み方や食べ方を取り入れた商品開発を進めました。
 お茶を使ったお菓子を販売し、無料でお茶を楽しめる店をつくったことも、お茶本来の良さを再認識してもらう大きなきっかけとなりました。
 前田社長は言います。

「お茶は本来、人の心をなごませてくれるものです。“ホッとひと息を演出してくれる優しい飲み物”です。そんなお茶なのに、長いこと“葉っぱを売る”ことしかしてきませんでした。お茶の葉っぱを売るのはやめよう。前田金三郎商店が売るものは、やすらぎ、くつろぎ、リラックスにしよう。そう思い、一般個人のお客さまにくつろいでもらうためのお店をつくり、売上をつくることより、くつろぎの商品をつくることにウエイトを移したところ、お客さまがどんどん増えてきたのです」


「お客が増える!No.53」は、前田冨佐男社長が自問自答し、出した答えを経営に反映させてきたことをレポートにまとめました。
 お茶は何のために存在するか。その存在理由を理解、納得してもらうための商品は何か。それらお茶の価値を心から理解してくれるお客は誰か。
 商品と客層が一致すれば、お客が増えることがわかる事例レポートです。

前田社長のハガキ

前田冨佐男社長が書くハガキは文字量が多い。




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